死ぬまで一生

半分嘘で半分本当

そういうバイト



私は高校3年生のとき、スナック嬢だった



本当はスナックなんて、なんとなく廃れたところのような気がしてすごく嫌だった。でもすすきのにはキャバクラがなくて、あるのはガールズバーニュークラブかセクキャバか風俗ぐらいだ。ガールズバーは大体早朝まで営業しているところがほとんどで、次の日学校がある私には無理だった。セクキャバや風俗は処女の私にはとても働く勇気なんてなかったし、ニュークラブは平均年齢が20歳以上のところが多かったので問題外だった。(しかも芋みたいな高校生の私には尚更問題外だった)そして結局、消去法でスナックに応募してみることにしたわけだ。




わたしは5月の前半生まれで、周りよりも早く18歳になった。誰よりも18歳になることを待ち望んでいた。なぜなら、早く"そういうバイト"をしたかったからだ。


当時わたしはアイドルの追っかけをしていて、週6で働いていた居酒屋の給料じゃ飛行機代やチケット代が賄えなくなってきていた。

年上の追っかけ友達がほとんど夜職だったというのもあり、"そういうバイト"をするのにあまり抵抗がなかったわたしはネットで求人を探し、次の日に面接に向かうことが決まった。不思議と緊張はしていなかった。なんならこれから夜の世界に溶け込んでいくであろう自分を想像して、少し大人になった気分だった。


家から遠い高校に通っていたわたしは、一度家に戻り私服に着替えてから面接に向かおうとしていた。いつもより綺麗めな服、いつもより濃いめの化粧。夜の街に馴染もうとしているその姿は、普段とは少し別人のようだった。今だったら躊躇しているかもしれない。けれどその時のわたしは悪いことをしようとしているだとか、そういうことは一切考えていなかった。



指定されたビルの3Fの一番奥に、その店はあった。重たいドアを開けると、バーカウンターに立っている女の子たちが一斉に「いらっしゃいませ」と言った。きらびやかなシャンデリアに高級そうなソファー。初めての雰囲気に圧倒され少しクラクラした。

少し年上の女の人が奥から出てきて、角のソファー席に案内された。

女の人がくれた名刺を見ると、翔子と書いてあった。履歴書を読む翔子さんの綺麗にネイルされた爪をぼーっと眺めていると、「18歳になったばっかりみたいだけど、高校は行ってないの?」と尋ねてきた。

高校生は水商売は禁止だ。しかし、高校に行っていない18歳は働いてもいいということを知っていたわたしは、履歴書上では高校を中退したことにしていた。

「去年辞めました。18歳になったらすぐにこういう仕事をしようと思っていたんです」

なぜかバイトとは言えなかった。言い慣れない"仕事"という言葉がむず痒かった。

「そうなんだ。私も中退してからずっと水商売してるんだよ」そう言いながらにっこり笑った翔子さんを見て、私はつられてへらへら笑った。

面接は合格し、次の日から出勤することになった。源氏名はどうする?と聞かれ、何も考えていなかったわたしは翔子さんに「かれん」という源氏名に決めてもらった。

お店を出るときに翔子さんが女の子たちに「明日から入ることになったかれんちゃんです。仲良くしてね」と紹介してくれた。

ああ、明日から私は名前が2つになるんだ。

よろしくねーとみんなが笑顔で挨拶してくれて、単純なわたしはなんだか出勤がすごく楽しみになった。